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コラム

100年以上前のスタインウェイUPの修理

100年以上前のスタインウェイUPをよみがえらせる!


私が3年前このスタインウェイを検品した時、唖然としました。
低音のシングル巻線(バス弦)が1本無かったのです。
えっ 嘘でしょ! 底板をのぞいても 破線はありません。
調律師が断線した弦を持ち帰り、張弦せず放置したようです。
調律師としては 絶対やってはいけないことですね。
2本打ちの箇所だったので隣の弦のコピーを注文し、張弦し解決しました。

次にハンマーの件です。
新品のレンナーハンマーを取り付けて 一見綺麗な状態でした。
通常、ハンマーは 芯になる板状のハンマーウッドに 1台分の横長の
ハンマーフェルトを巻き接着し、ビョウで止め 一音づつカットした物が
シャンク(柄)に取り付けられてます。


〔スタインウェイではありません:写真〕

これはハンマーを前から見た状態です。
もともと フェルト部が隣同士 つながっていた訳です。
一対の物を使う事で、音色や音量のバラつきが出ないようにするのです。

ただカットする過程で フェルト側面がパンの耳のように膨らんでしまい
中央がへこんだ形で、打弦すると3本のピアノ線に 均等に当たらなくなってしまいます。
このピアノがまさに その状態でした。
これではレンナーハンマーといえども 良い音は出ません。
そこでファイリング〔ハンマー整形:ハンマーの表面を平に削る作業〕を行いました。


アクションのオーバーホールですが
湿度がある置き場所だったため、ピアノ部品が湿気を含み
スティック(関節の油切れ状態になり、モーションが鈍ったり音が出なくなる)
症状でした。全体がそんな感じだったので 
かなりの数センターピン(関節部の芯)を交換しました。

前回、このピアノは現在のアクションと違う箇所があると書きましたが
今のアクション構造に至る 過渡期ではありますが、
修理や調整をやっていて 逆に新鮮さを感じました。
私も技術者として 良い経験をさせてもらったと思います。



現在の一般的アップライトアクションを 左から見た所です。
ダンパーレバーやハンマーバットがそれぞれのフレンジで
メインレールにネジ止めされています。
そのため部品の脱着や走りや間隔などの調整が効率よく行なえます。
バットプレート、バットスプリング、バットスプリングコードもあり
スプリング調整も手早くできます。


修理したスタインウェイアクションを 左から見た所です。
まず驚いたのが、ダンパーレバーとハンマーバットが
1つのフレンジで上部からメインレールにネジ止めされ
ハンマーをはずすとダンパーも一緒に付いて来るしくみです。
ダンパーの止音の調整をするとハンマーの間隔がずれたり
ジャックの突き上げポイントが狂ったりします。
あちらを立てれば、こちらが立たず!
部品双方のモーションに気を付けて行う作業でした。
弦合わせなどは (シャンクごて)を使用し微調整、
根気のいる整調でした。


バットにはバットスプリングコードが無く
ダンパーストップレール下部よりスプリングが下がり
ハンマーバットの溝にはまってます。
そのスプリング圧は 現代の物より弱いものでした。
俊敏なアフタータッチを行うには、
デリケートなスプリング調整が要求されるのです。
※ヤマハYUAにはこれに良く似た板状のスプリングが使われてます。


〔スタインウェイフレーム中高音セクション〕

話は変わりますが
チューニングピンの上部に数字が書かれているのがおわかりでしょう。
この数字は 今のスタインウェイにも同じようにあります。
これはピアノ線(太さ)の番手を表記しています。
ほとんどの日本製のピアノは、番手が駒にスタンプされています。
古いピアノの駒などは 数字が薄くなったり消えてしまっている
物もあります。
もちろん 切れた弦の径をマイクロメーターで計れば分かりますが
万が一、コンサート本番中の断線で一刻でも早く張弦したい時などは
見やすい場所に表示していた方が有利ですね。
アップライトピアノなら アクションを外さないと
駒を見ることができません。日本製のピアノも倣ってみては?

このピアノは 今後のメンテナンスにも 
色々注意を払わなくてはいけません。、
しかし、部品の材質の良さに感心したり、
修理する私が、100年以上前の職人の
匠の技や、ピアノ製作のこだわりを理解出来た時
私は、幸せな気分になるのです。

ピアノの置き場所については 若干湿度が気になり、
先生に 防湿対策のアドバイスを してきました。
最近はその甲斐あって、音量も豊かになり
スタインウェイの気持ちの良い音が響いております。


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